案件の基本情報
- 対象会社
- ファミリーマート(旧ユニー・ファミリーマートホールディングス)(8028)
- 買付者
- 伊藤忠商事系(2018年:伊藤忠リテールインベストメント合同会社 / 2020年:リテールインベストメントカンパニー合同会社)
- 買付価格
- 2018年:11,000円(1対4分割前、分割調整後2,750円) / 2020年:2,300円(分割後)
- 公表前株価との関係
- 2018年:10,020円(開始予定公表前)・11,070円(実開始前) / 2020年:1,766円 / 2018年:開始予定公表前終値比9.78%、実開始前終値比-0.63% / 2020年:終値比30.24%・3か月平均比22.47%
- 買付期間
- 2018年7月17日〜8月16日 / 2020年7月9日〜8月24日
この案件の結論
ファミリーマート案件は、2018年の過半数取得と2020年の非公開化を別段階として読み、伊藤忠の戦略合理性と、少数株主へ提示した2,300円の十分性を切り分けて評価すべき取引である。
この記事の要点
- 2018年は上場維持を前提とする上限付きTOBで、伊藤忠側の持分は41.50%から50.10%へ上昇した。応募28,527,349株のうち取得は10,880,400株だった。
- 2019年3月1日の1対4株式分割を反映すると、2018年の11,000円は分割調整後2,750円に相当する。
- 2020年の2,300円は公表前終値比30.24%だが、PwCのDCF下限2,472円を下回った。
- ファミリーマート取締役会は取引へ賛同したが応募は推奨しなかった。TOB成立後、同社株は2020年11月12日に上場廃止となった。
全体像
2020年のTOBは、伊藤忠商事がファミリーマートの経営支配権を初めて取得した案件ではありません。伊藤忠グループは公表時点ですでにファミリーマート株の50.10%を保有し、同社を連結子会社としていました。
したがって、この取引の本質は、残る少数株主の持分を現金化してファミリーマートを非公開化し、伊藤忠―ファミリーマート間の親子上場を解消することにありました。実際の公開買付者は、伊藤忠商事が99%、東京センチュリーが1%を出資した「リテールインベストメントカンパニー合同会社」です。
最も重要な特徴は、ファミリーマート取締役会が、
非公開化には賛成するが、2,300円でTOBに応募することを積極的には勧めない
という立場を取ったことです。つまり、事業戦略としての非公開化の合理性と、少数株主に支払う価格の十分性を分けて判断した案件でした。
2018年の前段―41.50%から50.10%へ
伊藤忠商事は2018年、ユニー・ファミリーマートホールディングス株52,507,296株、41.50%を保有していました。100%子会社の伊藤忠リテールインベストメントを通じて追加取得し、連結子会社化するため、4月19日にTOBの開始予定を公表しました。
実際の買付期間は2018年7月17日から8月16日までの23営業日、価格は11,000円でした。4月の開始予定公表前終値10,020円に対して9.78%、同日までの3か月平均8,216円に対して33.89%のプレミアムです。一方、実際の開始前営業日である7月13日終値11,070円と比べると、11,000円は0.63%低い水準でした。
買付予定数は上限10,880,400株、下限なしです。28,527,349株の応募を按分し、実際に取得したのは10,880,400株でした。伊藤忠商事と公開買付者の合計所有割合は50.10%となり、上場は維持されました。
その後、2019年3月1日に1株を4株とする株式分割が実施されています。2018年の11,000円は、分割調整後では2,750円に相当します。2020年の2,300円と比べるときは、この株価単位の違いをそろえる必要があります。
1.2020年の取引条件と結果
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2020年7月8日 |
| TOB期間 | 2020年7月9日~8月24日、30営業日 |
| TOB価格 | 1株2,300円 |
| 伊藤忠グループの事前保有比率 | 50.10% |
| 買付対象の最大株数 | 252,557,288株。上限なし |
| 成立のための下限 | 50,114,060株、発行済み株式ベースで9.90% |
| 下限達成時の伊藤忠側保有比率 | 60%以上 |
| 実際の応募・取得株数 | 79,017,884株 |
| TOB後の所有割合 | 買付者15.61%+伊藤忠商事など特別関係者50.10%=合計65.71% |
| 上場廃止日 | 2020年11月12日 |
| 株式併合の効力発生日 | 2020年11月16日 |
TOB期間、価格、買付予定数については伊藤忠の公表資料に記載され、実際には訂正後の79,017,884株が応募され、すべて取得されました。TOB後の所有割合は、公開買付者15.61%と伊藤忠商事など特別関係者50.10%を合わせた65.71%です。
「約5,800億円」の意味
伊藤忠の資料に記載された買付代金は最大580,881百万円、すなわち約5,809億円でした。ただし、これは伊藤忠側以外が保有する252,557,288株をすべて2,300円で取得した場合の最大額です。
TOB段階で実際に取得したのは79,017,884株なので、単純計算によるTOB段階の支払額は、
79,017,884株 × 2,300円 = 約1,817億円
です。残った株主については、その後の株式併合、いわゆるスクイーズアウトによって同じ1株2,300円相当で現金化されました。したがって、「5,800億円」はTOB段階の実支出額ではなく、非公開化全体を完遂するための最大取得額に近い数字と理解するのが適切です。
2.なぜ伊藤忠はファミリーマートを非公開化したのか
① 親子上場による「部分最適」と「全体最適」の衝突
ファミリーマートは伊藤忠の連結子会社である一方、独自の一般株主を持つ上場会社でもありました。
例えば、伊藤忠がグループ全体の物流や商品調達を最適化しようとしても、ファミリーマート側では少数株主の利益を考慮しなければなりません。伊藤忠側は、情報共有、物流コスト構造の把握、人材・資金・経営資源の再配分などに制約が生じ、ファミリーマート単体の「部分最適」と伊藤忠グループ全体の「全体最適」が緊張関係にあると説明しました。
非公開化すれば、ファミリーマートの株主利益と伊藤忠グループの利益を調整する必要性が大幅に小さくなり、サプライチェーン、商品開発、物流、デジタル、海外事業などを一体的に進めやすくなります。
② コンビニ事業の構造問題への対応
当時のコンビニ業界では、24時間営業、人手不足、フードロス、加盟店の負担、物流費上昇、国内市場の成熟などが大きな課題になっていました。
伊藤忠とファミリーマートは、非公開化により迅速な意思決定を可能にし、次のような施策を進める構想を示していました。
- サプライチェーン全体の再構築と物流コスト削減
- 店舗運営の省人化・効率化
- リアル店舗とデジタルの融合
- 商品開発力の強化
- 海外戦略の見直し
- 24時間営業、人手不足、フードロス問題への対応
ファミリーマート側も、伊藤忠グループとの密な連携、経営資源の相互利用、リアルとデジタルを融合した新しい事業モデルへの転換には合理性があると判断しました。
③ 短期業績を悪化させる可能性がある投資を行いやすくする
デジタル化や店舗改革、物流網の再構築には先行投資が必要です。短期的には利益が減る可能性があり、上場会社のままでは四半期・年度業績や一般株主への説明を考慮しながら進めなければなりません。
ファミリーマートは、こうした投資を「同時に、迅速に」行うには上場を維持したままでは難しく、伊藤忠グループから経営資源を投入してもらう際にも一定の制約があると説明していました。
3.価格交渉はどのように進んだのか
価格交渉は、新型コロナウイルスの影響を強く受けました。
| 時期 | 伊藤忠側の提案 |
|---|---|
| 2020年3月2日 | 2,600円 |
| 3月28日 | 2,000円程度 |
| 4月3日 | コロナの影響が不透明なため交渉を一時停止 |
| 5月中旬 | 交渉再開 |
| 5月14日 | 2,200円 |
| 6月26日 | 2,300円 |
| 7月2日 | 2,300円を最終価格とし、これ以上は引き上げないと回答 |
最初の正式提案は2,600円でしたが、コロナ禍による市場急落と業績見通しの不透明化を受け、伊藤忠側はいったん2,000円程度まで提案を引き下げました。ファミリーマートはこれを受け入れず、その後の交渉で2,200円、最終的に2,300円まで引き上げられました。
伊藤忠は後に、2,300円は社内投資基準を満たす最大価格であり、最大買付総額を約5,800億円、伊藤忠自身のエクスポージャーを約5,200億円と設定していたと説明しています。つまり、伊藤忠側には、戦略的に非公開化したい一方で、投資採算や財務規律上、それ以上は支払えないという論理がありました。
4.2,300円は高かったのか、安かったのか
市場株価に対してはプレミアムがあった
2,300円は、TOB公表前営業日の終値1,766円に対して30.24%のプレミアムでした。
- 前日終値1,766円比:30.24%
- 直近1か月平均比:20.55%
- 直近3か月平均1,878円比:22.47%
- 直近6か月平均比:11.22%
したがって、当時の市場価格を基準にすれば、一定の上乗せがある価格でした。
しかし、ファミリーマートの特別委員会が比較した、2010年以降の買付規模500億円以上の非公開化TOBでは、プレミアムの平均が前日終値比36.9%、1か月平均比39.2%、3か月平均比39.0%、6か月平均比36.8%でした。本件のプレミアムは、これらと比べると低い水準でした。
株式価値算定の結果
ファミリーマート側のメリルリンチ日本証券と、特別委員会側のPwCは、次のレンジを算定しました。
| 算定機関 | 市場株価方式 | 類似会社方式 | DCF方式 |
|---|---|---|---|
| メリルリンチ日本証券 | 1,766~2,068円 | 1,824~2,922円 | 2,054~3,432円 |
| PwC | 1,766~2,068円 | 1,694~2,168円 | 2,472~3,040円 |
2,300円は、メリルリンチの類似会社・DCFレンジには入っています。一方、PwCのDCFレンジの下限2,472円を172円下回っていました。
このため、ファミリーマート側の結論は次のようになりました。
- 市場価格に一定のプレミアムがあるため、2,300円が明らかに不合理とはいえない
- しかし類似TOBよりプレミアムが低い
- PwCのDCF評価の下限にも届いていない
- よって、株主に応募を積極的に推奨できる価格ではない
したがって、ファミリーマートはTOBそのものには賛同しつつ、応募するかどうかは株主の判断に委ねました。「応募しないよう勧告した」のではなく、応募判断については中立的な姿勢です。
なお、メリルリンチとPwCはいずれも株式価値算定書を提出しましたが、2,300円が公正であると明示的に結論づける「フェアネス・オピニオン」は提出していません。
5.最大のガバナンス論点――MOM条件が設定されなかったこと
MOMとは
MOMは「Majority of Minority」、すなわち、買収者と利害関係のない少数株主の過半数が賛成しなければ取引を成立させない条件です。
本件では、伊藤忠側が50.10%を持っていたため、一般株主側は49.90%でした。厳格なMOM条件を採用するなら、その半分に当たる全株式の24.95%、株数では約126,278,644株の応募が必要になります。
ファミリーマート側はこの水準の下限設定を求めましたが、実際の下限は50,114,060株、全体の9.90%にとどまりました。これは、伊藤忠側の保有比率を50.10%からちょうど60%以上に引き上げるための水準でした。
実際の応募状況
実際に応募し、取得されたのは79,017,884株です。
これは全株式の15.61%、伊藤忠側以外の買付対象株式252,557,288株に対しては、単純計算で約31.3%です。
したがって、
- 実際に設定された9.90%の下限は上回った
- しかし、厳格なMOMに必要な少数株主株式の過半数には届かなかった
という結果です。厳格なMOM条件が付いていれば、この応募数ではTOBは成立しなかったことになります。
伊藤忠側の説明
伊藤忠は、東証上場ETFだけでファミリーマート株の約20.04%を保有し、その他のパッシブ・インデックスファンドも約1割を保有している可能性があると分析していました。
こうしたファンドは、価格が妥当かどうかとは別に、指数連動の都合から原則としてTOBに応募できない、または応募しないことが多いとされます。そのため、厳格なMOM条件を付けると、価格が十分であってもTOBが成立しない可能性がある、というのが伊藤忠側の説明でした。
特別委員会の評価
ファミリーマートの特別委員会は、60%となる下限が一定の公正性担保措置として働くことは認めましたが、
- 下限の合理的根拠を確認できない部分がある
- MOMの趣旨に照らして十分な水準ではない
と評価しました。
ただし、独立した特別委員会、第三者評価、利益相反取締役の審議不参加、30営業日の公開買付期間など、ほかの公正性確保措置が講じられていたため、MOMがないことだけで取引全体の公正性が失われるわけではない、と結論づけています。
6.TOB成立後はどうなったか
TOB後の所有割合は、公開買付者15.61%、伊藤忠商事など特別関係者50.10%、合計65.71%となりました。残った一般株主を退出させるため、2020年10月22日の臨時株主総会で株式併合が承認されました。
具体的には、普通株式253,043,334株を1株に併合するという極端に大きな併合比率が設定されました。これにより伊藤忠側以外の株主の持分は1株未満の端数となり、その端数が現金化されました。支払額は、保有していた旧株式数に1株2,300円を乗じた金額になるよう設定されました。
その後の日程は、
- 2020年11月11日:最終売買日
- 11月12日:上場廃止
- 11月16日:株式併合の効力発生
となりました。
なお、最終的な当初設計は伊藤忠が100%保有する完全子会社ではありませんでした。非公開化完了後、伊藤忠が約94.70%、全農・農林中央金庫が合計4.90%、東京センチュリーが約0.40%を保有する計画でした。したがって、正確には「伊藤忠による圧倒的支配下での非公開化」であり、単純な100%完全子会社化とは区別する必要があります。
株式買取価格をめぐる争い
価格をめぐる争いは非公開化後も続きました。ファミリーマートは2023年4月5日、反対株主による株式買取請求について東京地裁の決定を受け、東京高裁へ抗告したと公表しています。この資料で確認できるのは高裁への抗告までで、その後の確定結果には触れていません。
7.このTOBをどう評価すべきか
事業戦略としては合理性が高い
伊藤忠はすでに50.10%を持っていたため、非公開化によって経営支配権そのものが大きく変わるわけではありませんでした。むしろ、親子上場による利益相反や情報共有の制約をなくし、物流・商品・デジタル・海外事業を一体運営することが主眼でした。
コンビニ業界が人手不足や24時間営業問題、国内市場の成熟に直面していたことを踏まえると、長期投資と迅速な意思決定を可能にするという戦略上の説明には相応の説得力があります。
価格面では明確な論争が残った
一方で、2,300円には次の問題がありました。
- 当初の正式提案2,600円より低い
- 類似する大型非公開化TOBよりプレミアムが低い
- PwCのDCF評価の下限2,472円を下回る
- ファミリーマート側が値上げを求めたが、合意に至らなかった
- ファミリーマートが応募推奨を出さなかった
伊藤忠側には「2,300円が投資採算上の上限」という事情がありましたが、それは買い手側の財務規律の説明であって、必ずしも少数株主にとって価格が十分であることを意味しません。
手続面では「一定の保護措置はあったが、MOMは弱かった」
独立特別委員会、第三者算定、利益相反関係者の審議除外、比較的長いTOB期間などの措置は取られていました。
しかし、実際には少数株主株式の約31.3%の応募でTOBが成立しており、少数株主の過半数の支持を条件とする厳格なMOMは満たしていません。この点は、本件が少数株主保護や親子上場解消のあり方を考える上で、最も重要な論点です。
まとめ
このTOBを一言で表すなら、
「非公開化という事業目的では伊藤忠とファミリーマートが一致したが、少数株主に支払う2,300円という価格については、最後まで十分な合意に至らなかった二段階買収」
です。
TOBは敵対的ではありませんでしたが、全面的に友好的な価格合意が成立した案件でもありません。ファミリーマートが示した「非公開化には賛成、応募判断は株主に委ねる」という姿勢が、本件の戦略的合理性と少数株主保護の緊張関係を最もよく表しています。
関連ページ
一次情報リンク
- ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社株券等に対する公開買付届出書 (伊藤忠リテールインベストメント合同会社・金融庁 EDINET)
- ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社株券等に対する公開買付報告書 (伊藤忠リテールインベストメント合同会社・金融庁 EDINET)
- 株式の分割に関する基準日設定公告 (ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社)
- リテールインベストメントカンパニー合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明報告書 (ファミリーマート)
- 株式会社ファミリーマート株式に対する訂正公開買付報告書 (リテールインベストメントカンパニー)
- 上場廃止等の決定:(株)ファミリーマート (日本取引所グループ)
- 当社株式買取請求に係る東京地方裁判所の決定について (株式会社ファミリーマート)
案件解説
ファミリーマートTOBを解説|伊藤忠の非公開化と価格問題
伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBを、2018年の50.10%化と2020年の非公開化に分け、2,300円の価格問題と取締役会が応募判断を株主に委ねた経緯から整理する。
案件公表日: / 公開日: / 更新日: