案件解説

島忠TOB合戦を解説|DCM対ニトリ、4,200円から5,500円へ

島忠をめぐるDCMホールディングスとニトリホールディングスのTOB合戦を、4,200円から5,500円への価格上昇と対象会社の推奨変更から整理する。

案件の基本情報

対象会社
島忠(8184)
買付者
DCMホールディングス / ニトリホールディングス
買付価格
4,200円 → 5,500円
公表前株価との関係
DCM案:3,555円 / ニトリ案:4,890円 / DCM案:終値比18.14%・3か月平均比39.53% / ニトリ案:意向公表前終値比12.47%・3か月平均比60.26%
買付期間
DCM:2020年10月5日〜12月11日 / ニトリ:2020年11月16日〜12月28日

この案件の結論

島忠TOB合戦は、先行する友好的な4,200円統合案でも契約相手が固定されず、1,300円高い5,500円案と対象会社の推奨変更が株主応募をニトリへ移した価格発見の事例である。

この記事の要点

  1. DCM案は島忠との合意に基づく4,200円の友好的統合として始まった。
  2. 島忠は2020年11月13日にニトリ案へ賛同・応募推奨を切り替え、DCM案への従前意見を変更した。
  3. DCMへの応募32,345株は取得株数ではなく、下限未達により取得は0株だった。
  4. ニトリは5,500円で30,009,772株を取得し、直接所有割合77.04%で子会社化。島忠株は2021年3月24日に上場廃止となった。

結論

この案件は、DCMホールディングスが島忠と合意した友好的TOBを開始した後、ニトリホールディングスが約31%高い価格で対抗提案を出し、島忠取締役会が推奨先をニトリへ変更した買収競争です。

最終的には、

  • DCM:1株4,200円 → 応募が下限に届かず不成立、取得0株
  • ニトリ:1株5,500円 → 30,009,772株を取得して成立、直接所有割合77.04%
  • その後、島忠はニトリの完全子会社となり、2021年3月24日に上場廃止

という結果になりました。

主要条件の比較

項目DCMホールディングスニトリホールディングス
公表・開始2020年10月2日公表、10月5日開始10月29日に開始予定を公表、11月16日開始
最終買付期間2020年10月5日〜12月11日2020年11月16日〜12月28日
TOB価格1株4,200円1株5,500円
公表直前終値との比較9月30日終値3,555円に対して18.14%10月28日終値4,890円に対して12.47%
直前3か月平均との比較3,010円に対して39.53%3,432円に対して60.26%
買収報道前の9月18日終値2,878円との比較45.93%91.10%
DCM価格に対する上乗せ1,300円、30.95%
買付予定数の下限19,477,700株19,477,600株
買付予定数の上限なしなし
最大買付代金約1,636億円約2,143億円
島忠の意見当初賛同・応募推奨、後に撤回して意見留保11月13日に賛同・応募推奨
結果応募32,345株、下限未達で取得0株30,009,772株を取得、直接所有割合77.04%

プレミアム率は、どの日の株価を基準にするかで大きく変わります。上表では基準日と基準価格を分けて示しています。


1.そもそもTOBとは

TOBは「株式公開買付け」で、買収者が、

  • 1株いくらで買うか
  • いつまで買うか
  • 最低何株集まれば成立するか
  • 最大何株買うか

を公表し、証券取引所の市場外で株主から株式を買い集める仕組みです。

今回、DCMとニトリはともに約50%を成立の最低条件とし、上限は設けませんでした。したがって、下限に届かなければ1株も買わず、下限以上なら応募された株式をすべて買う条件でした。また、両社とも最終的にはTOB後の株式併合などを通じて島忠を完全子会社化する計画でした。


2.DCMによる最初の友好的TOB

DCMが島忠を欲しかった理由

島忠は、家具・インテリアとホームセンターを組み合わせた独特の業態を持ち、埼玉、東京、神奈川、千葉など首都圏を中心に店舗を展開していました。

一方、DCMは全国規模のホームセンター大手でしたが、島忠の地盤である首都圏では相対的に店舗が少なく、両社には次の補完関係がありました。

地理的な補完

DCMの弱い首都圏に島忠の店舗網を加えられる。

商品面の補完

DCMはDIY、工具、建築・住宅資材、リフォーム、ホームセンター用PB商品に強い一方、島忠は家具やホームファッションに強かった。

規模の利益

共同仕入れ、物流拠点の共同利用、広告・店舗什器の共同調達、PB商品の相互供給・共同開発などでコストを下げられる。

顧客基盤の統合

共通ポイント、相互送客、ECの連携が期待された。

したがって、DCM案は基本的に、同じホームセンター業界の企業を統合して規模を拡大する「水平統合型」の買収でした。

DCMと島忠の価格交渉

DCMは2020年5月ごろから島忠と意見交換し、6月中旬に正式に経営統合を打診しました。7月下旬から8月下旬にかけてデューデリジェンスを実施し、価格交渉は次のように進みました。

日付DCMの提示価格
9月14日3,800円
9月24日4,050円
9月28日4,100円
9月29日4,200円で合意

島忠側が「企業価値を十分反映していない」と再考を求め、DCMが段階的に引き上げた経緯です。

島忠は当初、DCM案を支持

2020年10月2日、島忠取締役会はDCMのTOBに賛同し、株主に応募を推奨しました。

独立した特別委員会が設置され、プルータス・コンサルティングからは、4,200円が一般株主にとって財務的に公正であるとのフェアネス・オピニオンも提出されていました。つまり、DCM案は当初から一方的に押し付けられた買収ではなく、島忠との交渉、第三者評価、特別委員会の審査を経た友好的取引でした。

DCMの当初のTOB期間は10月5日から11月16日までの30営業日、価格は4,200円でした。その後、期間は12月11日まで延長されました。


3.ニトリが対抗提案を出した理由

ニトリにとって島忠は「ホームセンター参入の足場」

ニトリは家具・インテリアに強い一方、当時は本格的なホームセンター事業を行っていませんでした。

島忠を取得すれば、DIY、園芸、ペット用品、日用品などのホームセンター商材を取り込み、家具・インテリアだけでなく、住生活全体を扱う企業へ事業領域を広げられます。ニトリはこれを、自社の「製造物流IT小売業」の仕組みを島忠に導入する機会と位置付けました。

具体的に想定されたシナジーは次のようなものでした。

島忠の家具を全国で販売

島忠には、ニトリとは異なる価格帯やメーカー商品を含む家具販売の蓄積がありました。ニトリの全国店舗、EC、物流網を利用して、島忠ブランドの商品を首都圏外にも展開する構想でした。

ニトリのPB開発力を島忠に導入

当時、ニトリの商品のおよそ90%がPB商品とされており、商品企画、海外調達、製造、品質管理のノウハウを島忠のホームセンター商品に活用する考えでした。

全国物流網の活用

大型家具の配送・組立・設置を含むニトリの配送網を島忠でも利用し、物流費や配送時間を減らす構想でした。

EC・会員基盤の活用

ニトリは当時約4,000万人の会員基盤を開示しており、EC、アプリ、ポイント制度、相互送客を島忠に広げる方針でした。

したがってニトリ案は、単なる同業者の規模拡大というより、家具・ホームファッション、ホームセンター、物流、ECを一体化する「隣接市場への参入型」の買収でした。


4.ニトリによる5,500円の対抗提案

ニトリは2020年10月29日、1株5,500円で島忠へのTOBを行う予定だと発表しました。

この時点では公正取引委員会の審査手続が完全には終わっていなかったため、「TOB開始」ではなく「開始予定」の発表でした。しかし、DCMのTOBが先に成立してしまうのを防ぐ必要があり、正式開始に先立って対抗提案を公表したのです。

5,500円は、

  • DCMの4,200円より1,300円高い
  • DCM価格に対して30.95%高い
  • DCM買収報道前の9月18日終値2,878円に対して91.10%高い
  • ニトリ公表前日の10月28日終値4,890円に対して12.47%高い

価格でした。

最大買付代金は約2,143億円で、DCMの約1,636億円より約506億円大きい計算です。


5.島忠取締役会がDCMからニトリへ転じた過程

ニトリの提案を受け、島忠と特別委員会は11月1日、4日、9日にニトリと面談し、価格、シナジー、経営方針、雇用、経営体制などを検討しました。

同時に島忠は11月9日、DCMに対し、4,200円をニトリと同じ5,500円以上へ引き上げる考えがあるかを照会しました。しかし、11月12日時点でDCMから値上げ予定や具体的な金額は示されませんでした。

島忠の判断理由

11月13日、島忠取締役会は次のように判断しました。

第一に、一般株主にとって5,500円のニトリ案の方が明確に有利でした。

第二に、価格だけでなく、ニトリの物流、PB、EC、全国展開力を利用した方が、島忠の事業は中長期的に発展する可能性が高いと評価しました。

第三に、雇用と経営の継続性について、ニトリは島忠側の要望を受け入れました。DCMとの契約では雇用維持が少なくとも3年間、経営体制維持が「当面の間」だったのに対し、ニトリとの契約では、従業員の雇用条件と島忠の業務執行取締役の体制を少なくとも5年間維持する内容となりました。

また、ニトリから島忠へ取締役3名を派遣する一方、島忠側からもニトリへ取締役1名、執行役員4名を出すことが合意され、島忠ブランドや商号も維持することとされました。

その結果、島忠は、

  • DCMへの賛同・応募推奨を撤回
  • DCM案については「反対」ではなく意見留保
  • ニトリ案に賛同し、株主に応募を推奨

という決定をしました。特別委員会も全員一致でニトリ案への賛同・応募推奨が妥当と答申しています。


6.ニトリのTOBは「敵対的」だったのか

ここには重要な区別があります。

2020年10月29日にニトリが対抗提案を発表した時点では、島忠はDCMとの契約を支持しており、ニトリはまだ島忠取締役会の賛同を得ていませんでした。その意味では、当初は島忠の事前同意を得ていない対抗提案でした。

しかし、ニトリが正式にTOBを開始したのは11月16日です。その前の11月13日に島忠とニトリは経営統合契約を締結し、島忠取締役会もニトリ案への賛同・応募推奨を決定しています。

したがって、

ニトリは敵対的TOBを最後まで押し通した

という表現は正確ではありません。

より正確には、

当初は同意前の競合提案として登場したが、正式なTOB開始前に島忠の支持を獲得し、友好的・推奨付きTOBへ転換した

という案件です。


7.DCMが価格を引き上げなかった理由

DCMの公式開示は、値上げしなかった理由を一つに特定して説明していません。確認できるのは、島忠が5,500円以上への変更を照会したものの、11月12日時点でDCMから具体的な増額案が示されなかった、という事実です。

ただし、開示資料からは価格観の違いが読み取れます。

DCM側のSMBC日興証券によるDCF法の算定レンジは1株3,166~4,837円で、DCMの4,200円はこの範囲内でした。これに対し、ニトリ側の大和証券によるDCF法の算定レンジは2,964~5,763円で、5,500円はその上限に近い水準でした。いずれも買収後のシナジーは算定価格に直接反映していません。

算定の前提や事業計画が異なるため単純比較はできませんが、合理的な推測としては、

  • DCMにとって5,500円は自社の評価レンジを超える水準だった
  • 5,500円への増額には最大約506億円の追加資金が必要だった
  • DCMは同業統合によるシナジーだけでは、それだけの増額を正当化しにくいと判断した
  • ニトリはホームセンター参入、全国展開、物流・EC・PBへの波及まで含む、より大きな戦略価値を見込んだ

と考えられます。

つまり、単にDCMに資金がなかったというより、両社で島忠に対する戦略的価値と許容できる買収価格が異なったと見るのが適切です。


8.最終結果

DCM

島忠の意見変更などに伴う訂正届出により、DCMのTOB期間は当初の11月16日までから、12月1日、さらに12月11日まで延長され、最終的に48営業日となりました。

しかし、応募されたのは32,345株でした。これは買付対象株式数の約0.083%、成立下限19,477,700株の約0.17%です。

下限未達の場合は応募株式を一切買わない条件だったため、DCMは1株も取得せず、TOBは不成立となりました。

ニトリ

ニトリのTOB期間は2020年11月16日から12月28日まで、価格は5,500円でした。

応募は30,009,772株となり、下限19,477,600株を大きく上回りました。ニトリは応募株式をすべて取得し、事前に市場で取得していた100株と合わせた直接所有割合は77.04%となりました。

2021年1月6日に決済が行われ、島忠はニトリの連結子会社となりました。残った少数株主については株式併合による完全子会社化が進められ、島忠株式は2021年3月24日に上場廃止、株式併合は3月26日に効力を生じました。


9.この案件が重要だった理由

株主に「競争による価格上昇」が還元された

買収報道前の株価2,878円に対し、最終的な売却価格は5,500円でした。買収者間の競争によって、株主が受け取る価格がDCM案からさらに約31%上昇した典型例です。

最初の賛同は後の提案を拒む理由にならなかった

島忠は、DCMの4,200円について当初フェアネス・オピニオンを取得していました。しかし、「公正な価格」であることは、「それ以上の提案が存在しない」ことを意味しません。

より高い価格とより有利な経営条件が現れたため、特別委員会と取締役会が改めて比較し、推奨先を変更しました。

DCMの契約が対抗提案を完全には封じていなかった

DCMと島忠は、競合買収者との接触を禁止する契約を結んでおらず、TOB期間も法定最短の20営業日ではなく30営業日に設定していました。公式資料でも、対抗提案の機会を確保する目的が明記されています。

結果的に、この仕組みがニトリの参入と価格競争を可能にしました。

価格だけでなく、事業計画とステークホルダー条件も比較された

島忠の判断では、5,500円という価格が最大の違いでしたが、同時に、

  • 将来の事業成長
  • EC・物流・PBの能力
  • 雇用条件
  • 現経営陣の継続
  • 島忠ブランドの維持
  • 統合後の経営参加

も比較されました。


まとめ

このTOBを一言で表すと、

DCMが友好的買収の道を開き、ニトリがより高い価格とより広い成長構想を提示して競争に勝った案件

です。

DCM案は、首都圏店舗網、共同仕入れ、PB、物流を組み合わせる合理的な同業統合でした。しかしニトリは、DCMより1株1,300円高い価格に加え、製造・物流・IT・EC・全国販売網を島忠へ投入する構想と、5年間の雇用・経営継続条件を提示しました。島忠取締役会と特別委員会はこれを株主利益と中長期の事業発展の両面で優位と判断し、最終的にニトリが島忠を取得しました。

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