案件タイプ
鳥居薬品は日本たばこ産業が54.78%を持つ上場子会社であり、少数株主の退出と親会社の事業売却を同じ価格で処理すると、売却益課税などの事情から株主間の受取価値を揃えにくかった。そこで一般株主は高いTOB価格、日本たばこ産業は低い自己株式取得価格で売却し、税効果を含む受取額と株主間の公正性を両立させる設計が採用された。
本件は上場子会社だけを切り離す単純な株式取得ではない。日本たばこ産業が持つ医薬事業と米国子会社も塩野義製薬へ移し、国内の開発・製造・販売網を一体で再編する。鳥居薬品にとっては親会社の交代と非公開化が同時に進み、塩野義製薬にとっては製品、専門領域、人材、供給設備をまとめて補強する取引だった。
読みどころ
販売面では、鳥居薬品が持つ皮膚科・小児科・耳鼻咽喉科の医療機関接点を使い、塩野義製薬の感染症製品の情報提供範囲を広げられる。逆方向にも塩野義製薬の全国営業網を鳥居薬品製品へ生かせる。既存顧客への品目追加なら新規営業拠点を一から築くより費用効率が高いが、医療現場での専門性を保った教育と販売管理が前提になる。
研究開発と供給では、候補化合物や技術の共有、海外ネットワークの利用、製造設備の相互補完に価値がある。医薬品は開発失敗や承認遅延が避けられず、シナジーは直ちに利益へ転化しない。一方、災害時の生産バックアップや調達統合は売上拡大とは別に供給継続性を高めるため、統合後は共同開発件数だけでなく欠品、原価、設備稼働率も追う必要がある。
6,350円は直前終値への上乗せが21.41%にとどまる一方、1〜6か月平均には約39〜43%のプレミアムを付けた。みずほ証券の市場・類似会社・類似取引レンジを全て超え、DCF4,979〜7,080円の範囲内にあるため、市場基準では十分な上乗せ、事業計画基準では上方余地を一部残す価格である。フェアネス・オピニオンがない以上、DCF上限まで届かないことと二価格構造の合理性を特別委員会の交渉過程と合わせて判断する必要があった。
一般株主には6,350円で確実に退出する機会があり、日本たばこ産業が受ける4,568円より1,782円高い。応募しない株主も、成立後は株式併合で原則同額の金銭交付を受ける計画だったため、上場維持を期待する選択肢は乏しい。約1,098万株の応募は提示価格への支持を示すが、親会社が応募せずTOB対象株数が限られる特殊構造なので、応募率を通常の全株TOBと単純比較すべきではない。