案件タイプ
牧野フライスは高精度マシニングセンタや放電加工機を供給し、顧客の金型・部品加工工程へ深く組み込まれている。買収後の価値は設備や特許だけでなく、長期の技術支援、顧客の工程情報、エンジニアの継続性に左右される。そのため対象会社は、工作機械を持つニデックとの製品面の補完より、取引停止や人材流出がもたらす価値毀損を重く見た。
提案公表から開始まで約3か月あったが、対象会社が求めたのは抽象的な先延ばしではない。3月期決算の開示と、複数の第三者が法的拘束力ある提案へ進むためのデューデリジェンス期間だった。ニデックが4月4日に開始したことで、株主は代替案の価格・確実性が固まる前に11,000円へ応募するか判断する状況に置かれた。
読みどころ
ニデックにはモーター、制御、工作機械をまとめて製造装置事業を強くする論理がある。しかし対象会社は、具体的な顧客維持策や統合後の技術開発、人員方針が十分でないと判断した。労組投票と国内売上の10%超に当たる顧客の反応は、反対が取締役会だけの防衛論ではないことを示す一方、アンケートや意向は実際の退職・取引停止と同じではない点も区別が要る。
争点は11,000円の絶対水準だけでなく、50%の下限だった。買付けが50%台で成立しても、株式併合の3分の2を確保できず、応募しない株主がニデック支配下の上場少数株主として残る可能性がある。この不確実性は条件に不満な株主へ応募圧力を生む。追加応募期間があっても、成立条件と完全子会社化条件のずれ自体は解消しないというのが対象会社の主張だった。
本資料群だけでは独立算定レンジを同じ基準で確認できないため、11,000円をDCFとの比較で評価していない。重要なのは、高い現金価格でも代替提案を比較できる前に応募期限が来れば、最高条件か判断できないこと、また50%下限では応募後の完全子会社化が確実でないことである。したがって本件はプレミアム率の大小より、情報と取引結果の確実性が価格評価を左右した。
株主には11,000円で売る選択肢が提示されたが、撤回までに取引は成立しなかった。対象会社の対抗措置は取締役会だけで希薄化を確定する設計ではなく、6月の株主総会で意思を確認した後に効力を発生させる予定だった。東京地裁の仮処分却下後にニデックが撤回し、会社も直ちに割当てを中止したため、実際の希薄化は生じていない。この順序を外すと防衛策の結果を誤解する。