案件タイプ
タツタ電線は祖業の電線・ケーブルを安定基盤としながら、電磁波シールドフィルムや導電性ペーストなど、スマートフォン・半導体周辺で使われる電子材料へ重心を移していた。JX金属も銅製錬だけでなく先端素材を成長軸とするため、両社の方向は近いが、持分法関係では競争上重要な顧客情報や未公開技術を自由に共有しにくかった。
2022年12月の開始予定公表後、中国当局との協議は想定を超えて長期化し、クリアランスには抱き合わせ供給を制限する問題解消措置も付いた。この間にTOPIXや電線関連株が上昇したため、当初の基準日では高いプレミアムでも、開始時点の市場価格を下回るというねじれが生じた。
読みどころ
統合の産業的な意味は、電気銅の売り手・買い手という利益相反を内部化し、原料調達、スクラップ回収、再資源化までを循環させる点にある。銅価格の変動リスクを消せるわけではないが、需給情報と回収網を共有すれば在庫、歩留まり、安定供給を一体で設計できる。
より大きな上振れ余地は電子材料にある。圧延銅箔、金属薄膜、シミュレーション技術と、タツタ電線の機能性フィルム・ペーストを組み合わせれば、既存品のクロスセルだけでなく新製品の試作速度を上げられる。一方、中国の問題解消措置や顧客の調達先分散方針により、想定した販売統合をそのまま実行できない可能性は残る。
最終780円は2022年12月の終値に86.16%上乗せされ、更新DCF413~861円の上側に位置するため、最初の合意時点だけを見れば十分な水準に見える。しかし実際の開始公表前終値794円には1.76%届かず、株主は市場売却と応募を比較できた。720円からの60円引き上げは成立確度を高めたものの、改定後も開始時株価を超えてはいない。予告日プレミアムと実行日ディスカウントを併記しなければ、この案件の価格評価は歪む。
特別委員会は2022年の交渉で610円から720円まで引き上げ、720円提示後も増額を求めた。さらに長期化後は市場全体の上昇と事業計画の変化を再検証したが、開始時には価格維持を受け入れ、応募期間中の改定で780円に達した。結果的に株主は60円を追加で得た一方、長期間資金を拘束されない市場売却という選択肢もあった。公正性の評価では交渉回数だけでなく、時間経過を反映する再価格決定の仕組みが十分だったかを見る必要がある。